今回は、「パレード」について、感想を綴ります。
はじめに
著者は、吉田修一さんです。「パーク・ライフ」「悪人」「怒り」などで有名な方です。
吉田 修一は、日本の小説家。長崎市出身。長崎県立長崎南高等学校、法政大学経営学部卒業。大学卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。
出典:吉田修一 - Wikipedia
あらすじ
都内のマンションでルームシェアしている男女4人の若者達がいます。ある日、その4人に1人の若者が加わります。そこから物語が動き出します。「この事件が起きたのって、ちょうどサトルが来た日じゃない?」そんな会話から、上辺だけの付き合いに妙な違和感が出始めます。そんな若者たちの群像劇です。
お気に入りの場面
先に断りを入れておきますが、解説を書かれている川上先生とかぶります。
良介と顔見知りの学生との会話より
「あのさ、とつぜんで悪いんだけど、お前の親父さんって何やっている人?」
「俺の親父?」
「そう」
「なんで?」
「別に理由はないんだけど……」
「公務員だよ、公務員」
「どこで」
「石川県の金沢」
そう答えると、男は首を傾げながら、教室を出ていった。……お父さん、とりあえず金沢の公務員の息子は確保しました。
これ好きです(笑)
このやり取り好きにならない人なんていないでしょ!
と思ってしまうぐらい、好きです。良介の人の良さが伝わってきます。群像劇が好きな者として、この様な会話はめちゃくちゃ好きです。この物語において、良介の良さが絶妙なテイストです。
良介が琴ちゃんに好きな人について相談しているところより
「俺さ、マジで好きみたいなんだよね、その人のこと」
「好きなの?好きみたいなの?」
琴ちゃんはいちいちヘンなところに絡んでくる。
「だらか『みたい』ってのは、照れだよ」
「良介くんって単純そうで、案外ややこしいのね」
「俺、単純そう?」
「だって未来とか直樹くんがそう言うもん。……ま、それはいいんだけど。とにかく、マンションの周りなんかうろうろしていないで、きちんと玄関のチャイム押して告白すれば?」
「なんて?」
「だから、『俺、あなたのことが好きみたいなんです。この「みたい」っていうのは照れなんです』って」
「告白ねぇ…。やっぱ無理だよ。だって先輩の彼女なんだよ」
良介がすごく繊細なんだなって伝わってきますね。好きな人に好きって伝えられない良介が可愛く見えます。
呆然とする姉弟の前で、ぼくはまだ泣いていた。涙が溢れて止まらなかった。まるでじぶんとは完全に切り離されたもう一人の自分が、当のぼくを無視して、勝手に泣いているようだった。
なによりも、先輩の彼女の部屋での朝起きてからの良介の一連の描写がとても美しい(人間味溢れている)なって思いました。やりきれない想いが伝わってきます。
次に、未来と直樹がサトルについて話しているところより
「お前が知ってるサトルしか、お前は知らないんだよ」と言う。
「どういう意味よ」
「だから、お前が知ってるサトルしか、お前は知らないわけだ。同じように俺は、俺が知ってるサトルしか知らない。良介だって琴ちゃんだって、あいつらが知ってるサトルしか知らないんだよ」
「お前、マルチバースって知ってる?」
「知らない。何、それ」
「じゃあ、ユニバースは?」
「宇宙でしょ」
「そう。一つの宇宙ってこと。で、マルチバースってのは、いくつもの宇宙って意味」
「ふ~ん」
このやり取りから直樹の世界観が見えてきますね。独特な直樹の世界観が、直樹自体を表現していると読み取れます。また、直樹の思考が他の人とは明らかに違う感じが読み取れます。何か、達観しているようにも思えます。まぁ、これは、言い過ぎかもしれませんが。
また、直樹が子供の時に父親と一緒に観た映画の帰りより
この映画を観た自分が、怒っているようでもあり、哀しんでいるようでもあった。ただ、その怒ったり哀しんだりしているのが、本当にじぶんなのか――、たしかに今、自分の身近にあるこの怒りや悲しみが、一体誰のものなのか――、それがまったく分からなかった。
この気持ちには、共感しました。子供の頃はこんな思いを抱いたことあったな~って思い出しました。気持ちが追いつかない、というよりも、気持ちが独り歩きしている感じ。これって誰しも経験していることですよね。この気持ちを直樹は、大人になっても持ち続けているのだろうと思います。
幼少期に抱いた疑問って意外とずっと覚えていたりします。特に、未知の体験をした時などに動いた感情は、強烈に残ります。直樹は、この時の感情が大人になった今でも理解できていないのが伝わってきますね。当時の感情と決別や折り合いを付けられていない感じです。
そして、最後のサトルに犯行現場を目撃されて、部屋に戻ってからの直樹の場面より
たとえばこの世界に、もう一つ東京があったとしたら、そこであの女が倒れているのだとしたら、俺はきっと、すぐにでも彼女を救いに行ける。
直樹がもがいていることがよく分かる心情ですね。結局、自分と世界を切り離している。それがよく分かる表現な気がします。直樹自身が、幼少期に抱いた疑問が、いつまでもしこりとして、残っている。そこで、もがいている感じがします。
好きな場面を複数挙げましたが、言いたいことは、登場人物たちの心情の変化や思考が面白いということです。純粋な感じの良介、格差恋愛で心が消耗している琴、傍観者なサトル、幼少期に受けた痛みを抱えている未来、世界と自分とに壁がある直樹、この誰もが魅力的な物語です。
ラストはストンって落ちると思うな
なんといっても、この後のラスト数行が衝撃的でもあり、余韻が残ります。同時に、「マジか」ってなりました。もっと言うと、
…っえ、これで終わり!?
これが初めて読んだときの感想です。(笑)
だからでしょうか。自分の中でこの物語が終わってない感じがしています。何度も映画を観たり、読み返したりしています。まだ、腑に落ちない所があるから何度も読み返したり、映画を見たりしているのだろうと自己分析しています。
結局、『あなたがこの世界から抜け出しても、そこは一回り大きな、やはりこの世界でしかありません……』が当てはまります。一度は自分なりに物語が終焉をむかえて、『――。』と終わるのに、少し時間が経つとそのまた先に文章があるような気がしてしまい、気がついたら手にとっている状態です。
これは、中毒ですね(笑)
是非、皆さんも手にお取り下さい。